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2024年11月大地再生の旅・翻訳体験談「大地再生の旅」体験記


2024-11-17 オホーツク
2024-11-17 オホーツク

「まずはじめに、ここにいる全ての農家さんに心より感謝の気持ちを伝えたいです。私たち市民の生活は、皆さんのような農家さんが一生懸命に作物を育ててくれることで成り立っています。その中でも、皆さんのように、環境にも人間にもより優しい農業のカタチを実践・探究する農家さんこそが、世界の未来を創っていく存在であると、私は確信しています。この危機的な時代に自ら経営リスクをとり、大地再生農業に挑戦してくれて、本当にありがとう。」


2024年11月16日、北海道置戸町にて「大地再生の旅」という、リジェネラティブ(=大地再生)農業の実践研究グループの成果発表会が開かれた。道内から30軒以上の現役農家さんや新聞記者さん、大学の研究者さんなどが集まり、アメリカからも全米屈指の大地再生農業のインストラクターであるチャック・サンブレさんが参加した。チャックさんの同時通訳として福島県の会津から現地入りした私にとって、開会の挨拶でチャックさんが語ったこの言葉が今でも頭から離れない—


2024-11-16 置戸町
2024-11-16 置戸町

つい60年ほど前まで、私たち人間にとって食べ物とは貴重なもので、農業とは人の命を支える営みであった。しかし、戦後の農業技術の発達と海外からの大量の輸入食品によって、食べ物はいつでも、どこでも、いくらでも手に入る世の中が創られた。それに伴い、農業は単に作物を育てて売るビジネスへと変化していった。とくに現代農業は薄利多売のビジネスモデルとなっているため、毎年どんなことがあってもノルマとなる生産量を確保することが何よりも重要とされた。その過程で、作物が人体に及ぼす影響や、周りの自然環境へのインパクト、そして、持続可能な営みであるかどうか、といった本来検討されるべきポイントは後回しにされ、大量生産・大量消費型の飽食社会が誕生した。


2024-11-15 北海道大学農学部
2024-11-15 北海道大学農学部

しかし、ここにきて農業の目的を見直すべき時代が到来した。単に食べ物を大量につくるだけでなく、その過程で自然環境を豊かで持続可能なものにしていくことや、作物を食べた人を健康にしていくという本来の目的を復活させるべきだと、チャックさんは語っていたと思う。その方法論として「大地再生農業」があり、それぞれの農家さんがこの道を探究・実践していくことによって、私たちの未来はつながれる。


大地再生農業の実践にあたって、まず考えるべきことは大きく二つ。一つ目は、耕す作業をできるだけ減らすこと。耕運というプロセスを省くことは、土壌の生物性を保全して、炭素を始めとする栄養素を土中にキープすることにつながる。二つ目は、農閑期にはカバークロップ・緑肥を植えるか、雑草を生やすこと。カバークロップや緑肥、雑草は、炭素分を中心に窒素やミネラルなどの土壌の栄養素を増やす働きをしてくれる。


「できるだけ地表が生きた植物で覆われた状態をキープしましょう。」そう熱く語ったチャックさんの真意は、土中や植物の生理生態を理解すればするほど、よく見えてくる。


通常、農家さんは作物を育てていない間も畑を耕し、農地に雑草が生えていない状態を作る。次の作付け前に雑草が大きく育ちすぎて作業の邪魔になるのを予防するためだ。しかし、自然界における植物と土中環境の関係性を学んでいくと、いかなる雑草や植物も生きている限りはタダで農地の土づくりを進めてくれていることが分かってくる。生きている根っこを元氣に地中に伸ばす植物は、地上部での光合成から栄養素をつくり出し、それを根っこを介して地下に蓄えていく。この植物の根本的な生理現象を活用すれば、わざわざ人間が堆肥や肥料を作って畑にまくという作業そのものを省ける可能性がでてくるのだ。


「土にスコップを入れない日があると落ちつかないんだ」と冗談まじりに語るチャックさんは、健康な土の見分け方も丁寧に教えてくれた。「団粒構造」と呼ばれる理想的な土の姿は、誰もが一目見ればすぐに分かる美しいもので、スコップ一本あればすぐに確かめることができる。この土壌構造は植物と土中微生物の共同作業によってのみ作られていくので、作物の作付け前の土はできるだけ耕さずに、地表面に植物が青々と生やしておくことが大切なんだと、チャックさんは語った。


2024-11-16 メノビレッジ長沼
2024-11-16 メノビレッジ長沼

こうした大地再生農法は「お金と時間に余裕が生まれる」農法にもなりうる。栽培における作業行程をまるまる省いたり、必要な資材のコストをまるっとカットしていくからだ。そして、ここで得られる経済的メリットは、これまで農法の違いによって作り出された農業界の対立構造さえも溶かす力がある。


リジェネラティブ農業は、「農薬」や「肥料」といった農業資材の用途によって農家さんを差別しない。営農のゴールは、土を現状より豊かなものにすること、農業コストを落とすこと、収量を確保することであり、これは全ての農家に共通するものである。同じゴールを目指す者は、お互いに心づよい仲間となる。「大地再生の旅」という探究の場には道内・全国から慣行農家さんと有機農家さんが集い、お互いの取り組みから真摯に学び合う姿があった。農業の世界に足を踏み入れて5年になるが、こんな場を目の当たりにするのは初めてだった。


「大切なのは農薬や化学肥料を使わないことじゃない。それぞれの農家さんが、今より少しでも環境や土に良い農業を目指して一歩ずつ実践して、前進していくことだ」とチャックさんは語った。


植物や土壌の生理生態を学ぶこと。自然界の力を最大限に借りること。今よりも農業経費を減らすこと。そして、収益を伸ばすこと。こうした農業の基本に根本から立ち返ることができれば、農業は持続可能なカタチを取り戻すことができるのだと、大地再生農業は教えてくれる。同時にこの考え方は、大地だけでなく、社会全体を活性化させるための鍵を握る。


北海道の僻地にて、日本の未来を担う農家さんが集う「大地再生の旅」。これから全国の農地再生につながるムーブメントとして「大地再生農業」が日本にも確立され、10年、20年先には子どもが憧れる生業として「大地再生農家」が誕生していく未来を描いて、私自身もこの旅路を駆けていきたい。


自然農法 無の会 

宇野宏泰

 
 

​マオイカバーシード

北海道夕張郡長沼町東6線北13 メノビレッジ長沼

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